暗号資産(仮想通貨)に慣れてくると、「海外取引所も使ってみた方がいいのかな?」と気になる人も多いと思います。
実際、海外の暗号資産取引所は日本の取引所にはない銘柄やサービスがあり、魅力的に見える一方で、日本の法律やルールとの関係・安全性・税金など、注意すべきポイントもたくさんあります。
この記事では、海外取引所のメリット・デメリットを整理しつつ、
日本居住者が使う前に必ず知っておきたい注意点を、初心者にもわかりやすく解説します。
「海外取引所=危ないからダメ」という極端な話ではなく、リスクとルールを理解した上で、自分にとって必要かどうか判断できるようになることを目指しています。
海外取引所とは?日本の取引所との違い
海外取引所のざっくりしたイメージ
「海外取引所」とは、その名の通り日本以外の国・地域で運営されている暗号資産取引所のことです。
世界的に有名なところだと、Binance、Bybit、Krakenなどが挙げられます。
日本国内の暗号資産取引所は、金融庁に登録された「暗号資産交換業者」であることが必須ですが、
海外取引所はそれぞれの国・地域のルールに基づいて運営されています。
そのため、
- 取引できる銘柄やサービスの幅が広い
- レバレッジやデリバティブ(先物・オプションなど)が充実している
- 手数料が比較的安いところも多い
といった攻めのサービスが多い一方で、
日本の法律・規制の保護が及ばない範囲もあることが大きな違いです。
日本の規制と海外取引所の関係
日本では、暗号資産取引所(暗号資産交換業者)は資金決済法に基づき、
金融庁・財務局の登録を受ける必要があります。
また、海外から日本の居住者向けにサービスを提供する場合でも、
日本の金融庁に登録していない業者が日本居住者を対象にサービスを提供することは原則NGとされています。
実際に、金融庁はこれまでに複数の海外取引所に対して、
「登録なしで日本居住者向けにサービス提供を行っている」として警告を出しています。
2025年10月には、海外取引所Bybitが、金融庁からの警告を受けて日本居住者向けの新規口座開設受付を停止したこともニュースになりました。
このように、「海外にあるから日本のルールと無関係」というわけではなく、
日本居住者が利用する場合は、日本の規制との関係も必ず意識する必要があるという点を覚えておきましょう。
海外取引所を使うメリット
メリット1:取扱銘柄・プロダクトの豊富さ
海外取引所の一番の魅力は、なんといっても取扱銘柄の多さです。
日本の取引所では、金融庁のホワイトリスト制度などの影響もあり、
取り扱える銘柄はある程度絞られています。
一方で海外取引所は、
- メジャー通貨(BTC、ETH など)はもちろん
- DeFi銘柄・NFT関連トークン・L2トークンなどの上場が早い
- トークン化株式やステーブルコイン、先物・オプションなど、多様な商品を扱うところもある
といった特徴があり、より広い投資・トレードの選択肢を得られます。
たとえば、Krakenなどは2025年に海外居住者向けに株式トークンの取引を開始するなど、
暗号資産以外の金融商品との境界が薄くなってきている取引所もあります。
メリット2:手数料の安さ・流動性の高さ
大手の海外取引所は、世界中からトレーダー・投資家が集まるため、
取引量(流動性)が非常に大きいという特徴があります。
その結果、
- 板が厚く、スプレッド(買値と売値の差)が日本の取引所よりも狭いことが多い
- 現物・先物・レバレッジ取引などで、手数料がかなり低く設定されている取引所もある
「短期売買を頻繁に行う」「板を見ながら細かくトレードしたい」
といったトレーダーにとっては、手数料と約定のしやすさは大きなメリットになります。
メリット3:デリバティブ・レバレッジ商品が豊富
海外取引所の多くは、現物だけでなく、
- 無期限先物(Perpetual Swap)
- レバレッジ取引(証拠金取引)
- オプション取引
など、さまざまなデリバティブ商品を提供しています。
これらを使うことで、
「価格が下がる方に賭ける(ショート)」「少ない資金で大きなポジションを持つ」
といった戦略も取れるようになります。
ただし、このメリットは同時に非常に大きなリスクとも表裏一体です。
このあとデメリット・注意点のところで、くわしく触れます。
海外取引所を使うデメリット
デメリット1:日本の規制による保護が基本的に効かない
日本の暗号資産取引所は、資金決済法・金融商品取引法などのルールに基づき、
顧客資産の分別管理・コールドウォレット保管・自主規制団体(JVCEA)によるルールなど、
ユーザー保護のための仕組みが整えられています。
一方で、多くの海外取引所は、
日本の金融庁に登録されていない=日本の投資家保護ルールの対象外です。
そのため、
- トラブルが起きたとき、日本の監督当局が直接介入しにくい
- 倒産・ハッキング被害が出ても、日本の法律上の補償を受けられない可能性が高い
- 海外の法律・裁判手続きに従わなければならないケースもあり、個人では対応が難しい
という法的な保護の弱さは、どうしても避けられません。
デメリット2:サービス仕様・利用条件が突然変わるリスク
海外取引所は、各国の規制強化や当局からの指導を受けて、
日本居住者向けサービスを急に制限・停止することがあります。
実際に、Bybitは2025年10月に、
金融庁からの警告を受けて日本居住者・日本国籍を持つユーザーの新規登録受付を停止すると発表しました。
このように、
- 「ある日突然、新規登録できなくなる」
- 「日本居住者はレバレッジが使えなくなる」
- 「一定期限内にポジションを閉じて出金してください」と案内される
といったことは、今後も十分に起こり得ます。
「いつまでも今の条件で使える」とは限らないという前提で考える必要があります。
デメリット3:日本語サポートや情報が限定的になりやすい
海外取引所の中には、日本語表示や日本語サポートに対応しているところもありますが、
- 規約や重要なリスク説明は英語のみ
- 日本語表記が途中から消える・更新されない
- 問い合わせをしても英語で返ってくる
といったケースはよくあります。
特に、トラブルが起きたときに日本語で細かく相談できないことは、
初心者にとっては大きな不安材料になります。
デメリット4:税金の計算・申告が複雑になりやすい
海外取引所を利用して得た利益であっても、
日本の税法上は「日本居住者の所得」として課税対象になります。
日本の税制では、暗号資産の利益は原則として「雑所得」として総合課税となり、
他の所得と合算した上で累進課税が適用されます。
海外取引所を使うと、
- 取引履歴が日本円ではなくドル建て・USDT建てなどになる
- スポット・先物・レバレッジ・ステーキング報酬などが混在しやすい
- 取引履歴をCSVでダウンロードして、自分で整理する必要がある
など、利益・損失の集計がかなり複雑になることが多いです。
専門のソフトや、暗号資産に詳しい税理士を利用するなど、
税務面の準備もセットで考える必要があります。
海外取引所を使う前に知っておきたい注意点
注意点1:日本のルールに反する使い方をしない
まず大前提として、日本の金融庁に登録されていない海外取引所が、日本居住者向けにサービスを提供することは原則禁止とされています。
そのため、
- 日本の居住者向けの利用を明確に禁止している取引所を、規約違反の形で使う
- VPN等を使って居住地を偽装し、利用条件をすり抜ける
といった行為は、規約違反・法令違反になる可能性があり、強くおすすめできません。
最悪の場合、アカウント凍結や資産凍結のリスクもあり得ます。
注意点2:資産の置きすぎは避け、「分散」を意識する
海外取引所に限りませんが、
一つの取引所に資産を集中させること自体が大きなリスクです。
- ハッキング被害や倒産のリスク
- 規制強化により、日本居住者の利用が制限されるリスク
- 出金遅延・出金停止などのリスク
これらを考えると、
- 海外取引所には「トレードに使う分だけ」置く
- 中長期で保有する分は、国内取引所や自分のウォレット(ハードウェアウォレットなど)に移す
といった資産の分散を心がけた方が安全です。
注意点3:レバレッジ・先物は「なくなってもいい額」で
海外取引所の大きな魅力であるレバレッジ取引や先物取引は、
使い方を誤ると、一瞬で資金を失う可能性があるハイリスク商品です。
特に、
- 高倍率レバレッジ(20倍、50倍など)
- ボラティリティの高いアルトコインの先物
は、初心者が手を出すには危険すぎる領域と言ってもいいくらいです。
もしどうしても試したい場合は、
- 「なくなっても生活に影響しない額」だけを入金する
- 最初はごく低いレバレッジ(2〜3倍程度)から始める
- ロスカット・証拠金の仕組みを理解してから実際のトレードを行う
など、自分でルールを決めて守ることが何より大切です。
注意点4:税金・確定申告のことを事前にイメージしておく
海外取引所を使うなら、「年末に帳尻を合わせればいいや」ではなく、最初から税金のことを意識するのがおすすめです。
- 取引履歴(CSV)を定期的にダウンロードしてバックアップ
- 円換算レートをどう処理するか決めておく(ソフトを利用する 等)
- 海外取引所分も含めて「年間の損益」を把握できるようにしておく
金額が大きくなりそうな場合や、自分で計算が難しいと感じる場合は、
暗号資産に詳しい税理士や、専用の計算サービスの利用も検討すると安心です。
海外取引所を選ぶときのチェックポイント
ポイント1:運営実績・規制状況・評判
海外取引所を選ぶ際は、少なくとも次のような点はチェックしておきましょう。
- どの国・地域でライセンスを取得しているか
- これまでに大きなハッキングや出金停止などのトラブルがないか
- 規制当局からの警告・処分歴がないか
- ユーザー数・取引高などの規模感
公式サイトの「Legal」「Compliance」「Licenses」などのページや、
ニュース記事・比較サイト等を参考に、
安易に知名度だけで選ばないことが大切です。
ポイント2:日本居住者の利用条件がどうなっているか
現在、日本向けにサービスを提供しているかどうか、
利用規約で「日本居住者は利用不可」となっていないかは必ず確認しましょう。
たとえばBybitは、2025年10月31日以降、日本居住者・日本国籍を有する人の新規登録を停止すると公式に発表しており、
今後の日本向けサービスは大きく制限される見込みです。
利用規約に反してアカウントを作成してしまうと、
後から気づかれて資産がロックされるリスクもゼロではありません。
ポイント3:出金のしやすさ・サポート体制
海外取引所では、
- 日本円には直接出金できず、暗号資産として他所へ送金する必要がある
- 銀行への出金に時間がかかる、手数料が高い
- トラブル時にサポートへの問い合わせが英語のみ
といったケースも多いです。
事前に、
- 「日本円に戻すときのルート」を決めておく(国内取引所を経由する など)
- サポートの評判(返信速度・対応品質)を調べておく
ことで、いざという時の不安を少し減らすことができます。
まとめ:海外取引所は「万能な答え」ではなく、選択肢の一つ
海外取引所には、
- 銘柄・商品ラインナップが豊富
- 手数料が安く、流動性が高い
- デリバティブ・レバレッジ取引が充実している
といった大きなメリットがあります。
一方で、
- 日本の規制による保護が基本的に及ばない
- 規制強化により、日本居住者向けサービスが急に変わることがある
- 日本語サポートや情報が限定的で、トラブル時の対応が難しい
- 税金・確定申告が複雑になりやすい
といった見逃せないデメリット・リスクも抱えています。
海外取引所を使うかどうかは、
「みんな使っているから」ではなく、
自分の投資スタイル・リスク許容度・知識レベルを考えた上で判断するのが大切です。
もし利用する場合は、
- 日本のルールに反する使い方をしない
- 資産を置きすぎない(国内取引所や自分のウォレットも併用する)
- レバレッジ・先物は「なくなってもよい額」で慎重に
- 税金と確定申告を見越して、最初から取引履歴を整理しておく
といったポイントを意識しながら、
あくまで「選択肢の一つ」として、無理のない範囲で付き合っていくことをおすすめします。
なお、本記事は情報提供を目的としたものであり、
特定の取引所や暗号資産の利用・投資を推奨するものではありません。
最終的な判断は、必ずご自身の責任で行ってください。
